どす黒い日記帳

展覧会の感想など(主に都内)

#14 格式の高い下品

先日、ジャコメッティの映画を観に行った。
去年ジャコメッティ展を見たということもあり、折角だからと思った。

Final Portrait というタイトルが示すように、
ジャコメッティの最後の肖像画のモデルとなったロードが、
モデルを引き受けたばかりに振り回される物語である。

しかし何というか、こうした実話ベースのものに限らず、
酒と情事と懊悩と癇癪でパッケージされた製品の多さには辟易する。
本作も、その例にもれなかった。
ジャコメッティは妻の目の前で娼婦と浮気するし、
妻も対抗してか夫の親友と浮気するし、
ロードは恋人と電話で痴話喧嘩するし、
とにかく組み立てが安くて胃もたれがする。
そして、本作の安さは何よりShitという単語の登場回数の多さに表れている。
17回は出てきた。数えてないけど。

ただ、さすがコメディ()というだけあって、各所で客席から笑いがこぼれていた。白々しい。

なので、こうした芸術家映画を観るときの楽しみがあるとしたら、
芸術家を演じる主人公が「よく見つけてきたな」と思うくらい本人に似ていることだろう。
そっくり芸の白眉「ミッドナイト・イン・パリ」が現れてから、その傾向はエスカレートしているように思う。
恐らく、そっくりさんを見つけてそっくりに役作りしてしまえば、現場の仕事は9割終わったも同然なのだ。
あの伸びきった即席麺のようなシナリオが世に垂れ流されてしまうのも、そう考えれば合点がいく。

そういう意味で惜しまれるのは、作中に登場するジャコメッティ()の肝心のポートレートがクソ下手ということだ。
いや、こんな絵描いてたら、Sxxx! とか叫ぶ前に黙って絵筆折るでしょ。大芸術家なら。

たぶん、あまり似せすぎると財団からクレームが入ってしまうから、ギリギリの線を狙ったのだろう。
そういう意味でも、本家に対する敬意を忘れない、そっくり芸と真摯に向き合った名作なのだ。きっと。