不染鉄という画家がいたという。
さすがに本名ではないらしい。
本名・不染哲治––あまり変わらなかった。
"朦朧体"などを取り入れながら日本画を描き始める。
後年は画壇から距離を置き、ひとり絵を描き続けたという。
この界隈にはよくある話である。
それで、作品。
最初のフロアは何とも、どこを見どころと取ればよいか分からない。
決してうまくないし、画風も定まらない。
かといって独自性が見えるわけでもない。
・・・ただの平々凡々なひとでは?
そう思わずにはいられず、いたく落胆した。
会場自体、日本画、特に軸物の展示に向いているとは思えず、
狭苦しい展示の仕方にも閉口したが、それをおいても作品に魅力がない。
そう思った。
階を降りると、少し様子は変わる。
下手なことに変わりはないのだが、おじさんになってからの方がおもしろい。
重心がいやに高い構図、左右対称への異常な執着、
細かい書き込みとスカスカな余白の落差、日記のようなゆるいポエム。
構成の技術がないのに無理して縦長に目一杯書き込むあまり、
同じ画面でも途中途中断絶していて、ひとり"甘美な死骸"になっている絵も。
それでも、作品によっては味がある。
年代を経て熟成したのか、情緒がプラスされている。
墨の濃淡の使い方、緩急のつけ方も、初期よりはましな気がする。
一通り見て、
作品の横に誰か小学生を一人立たせて写真を撮ったら
しっくりくるのではないかと思った。
「日本画壇に 天才小学生 華々しくデビュー」とか見出しをつけて。
会場を回って、天才小学生の作品展を見ている気分だったのである。
もちろん、画家を小学生レベルと貶めたいわけではない。
一つの考察として、そうした見方もあるということである。
不思議だったのは、他の近代日本画展と同様に、シニア層が多かったこと。
これらの作品をどのようなものとして見て、どういう感想を得るのか、
素朴に知りたいと思った。
その点は、おもしろい画家だと思った。